断固として変えません。
滅多にない3連休が明けた。本来ならリフレッシュして仕事に臨むべき月曜日だが、出社した瞬間に肌を刺すような空気の重さに足が止まった。いつもの人間関係のトラブル——。だが、今回は少し様子が違う。
我が社の3連休は、従業員への慈悲ではない。ただの設備工事期間だ。私は幸い「お呼びでない」身分として休ませてもらったが、直属の上司は休日出勤という名の拘束を強いられていた。しかも、後日「代休を無理やり取らされる」という、体裁だけ整えた搾取付きで。
そんな浮かない顔をしていた上司を、さらなる不幸が襲っていたことを今日知った。
事件は土曜日の夕方に起きたという。工事が一段落し、業者も引き上げ、あとは帰るだけ。上司は、なぜか出勤していたTC課長に「お先に失礼します」と仁義を切りに行った。すると、返ってきたのは労いの言葉ではなく、信じがたい罵声だった。
「いや! 待て! 俺のタバコ買ってきてから帰れや!」
TC課長。自分より強い者には揉み手で諂い、弱い者には徹底的に牙を剥く。私もかつて彼から怒鳴られ、胸倉を掴まれ、蹴り飛ばされたことがある。あの男の辞書に「倫理」という言葉はない。
上司は屈辱を飲み込み、近くのコンビニまでタバコを買いに走ったそうだ。しかし、帰宅後に怒りと悔しさが噴出した。モヤモヤとした感情が、休日のはずの夜を汚していく。さらに悲惨なのは、翌日の日曜日もその「ハラスメントの鬼」と二人きりで濃密な時間を過ごさなければならなかったことだ。想像するだけで吐き気がする。
そして迎えた今日、月曜日。上司の目は据わっていた。彼は一線を越える決意を固めたのだ。 ターゲットは社長。この会社の経営一族の中で唯一、まともな話が通じる賢明な人物だ。上司は社長車があることを確認し、決死の覚悟で社長室のドアを叩いた。
待つこと一時間。戻ってきた上司の顔は、朝の暗雲が嘘のような満面の笑みだった。 「完勝だ! こっちの意見を全部飲んでもらえた!」 タバコのパシリの件、日頃の横暴、そして「二度とTC課長と関わりたくない」という切実な願い。それらを武器に、課長の影響が及ばない部署への異動まで取り付けたという。 「本当に良かったですね」 私も自分のことのように喜び、二人で笑い合った。溜飲が下がる思いだった。
……しかし、この会社を甘く見ていた。
昼休憩から戻ると、デスクには抜け殻のようになった上司が座っていた。 「……午前中の話は、すべて流れた」 消え入るような声で、彼は語り始めた。
社長は確かに動いてくれた。話を聞いた直後、すぐに副社長へ指示を出したという。だが、ここで「独裁者」の異名を持つ副社長が立ちはだかった。 「社長、待ってください。私が丸く収めます。私に任せてほしい」 血縁の甘さか、社長は独裁者に全権を委ねてしまった。
ハッピーエンドの幕は、無慈悲に引き裂かれた。 独裁者に呼び出された上司を待っていたのは、解決策ではなく「封じ込め」だった。 「お前も嫌な思いをしただろう。申し訳なかった。だが、この件は俺からTCにキツく言っておく。今後何かあったら俺が責任を持つ。だから、今まで通りで頼む!」 そうまくし立てられれば、それ以上の反論は「独裁者」への反逆を意味する。キレる寸前の副社長を前に、上司は「……はい」としか言えなかった。
「全部後は俺に任せろ」 その一言で、上司が命懸けで起こしたクーデターは、あっけなく鎮圧された。
その後、独裁者からTC課長へ「指導」が入ったらしいが、内容は見当違いも甚だしいものだった。情報源を伏せ、タバコの件すら隠してボヤかした忠告を与えた結果、TC課長は何一つ反省していない。それどころか、「社内に自分をチクった裏切り者がいる」ということだけを察知し、周囲への警戒と苛立ちを強めている。
直属の上司への当たりは相変わらずだ。いや、正体不明の「密告者」への疑心暗鬼が加わり、以前よりも空気は淀み、近寄り難くなっている。
勇気を振り絞った結果が、最悪の泥沼。 これが、私の勤める会社の日常だ。明日もまた、この濁った空気の中に身を投じなければならない。 溜息さえ、吸い込まれて消えていくような夜だ。