最近、我が家の長男・通称「珍ちゃん」の乳歯が生え変わり始めた。

下の前歯がぽっかりと空いたその口元を見ると、どうしても笑みがこぼれてしまう。喋るたびにそこから「スースー」と空気が漏れる抜けた音、そして今まで当たり前のように使っていた前歯で食べ物を噛みきれず、少し苦戦しながら食事をする姿。そのどこか「間抜け」で、でも今しか見られない愛らしい仕草が、親としてはたまらなく愛おしい。

しかし、そんな珍ちゃんの乳歯を巡って、我が家ではまたしてもひと騒動が起きた。

我が家には、夫婦間で決めた「歯磨きの鉄則」がある。朝は自分が出勤しているため妻に任せきりだが、夜の仕上げ磨きに関しては、夫婦で一日交代制をとっているのだ。これは、もし子供が虫歯になってしまった時に「お前の磨き方が悪いからだ!」といった不毛な責任のなすりつけ合いを避けるための、我が家なりの防衛策である。

珍ちゃんの歯が抜けた当日の夜、担当は自分だった。 磨きながら抜けた箇所を確認したが、少し血が滲んでいる程度で、特に異常はないと判断した。

事件が起きたのは、その翌日の夜のことだ。 お風呂を済ませ、いつものように子供たちの歯磨きタイムが始まった。まずは姉が自分で磨き、続いて珍ちゃんの番。今夜の担当は妻だ。

珍ちゃんがゴロンと横になり、妻がライトを当てて口の中を覗き込んだその数秒後、リビングに緊張が走った。

「ちょっと!珍ちゃんの下の歯、抜けたところに歯の根っこみたいなのが残ってるんだけど!

妻の声が一段階高くなる。振り向くと、そこには「鬼の形相」をした妻が立っていた。 「ねえ、これどうしたらいいの!?昨日あなたが磨いた時に分かったはずでしょ!?なんで気づかなかったのよ!」

ものすごい勢いで矛先がこちらに向く。自分も一瞬パニックになり、「昨日は血が滲んでいて見えなかったのか?」「もしかして無理に抜けて根っこが折れたのか?」と、記憶を必死に遡って冷や汗をかいた。

妻の怒りは収まらない。 「もういいわ!明日朝イチで歯医者に電話するから!あーあ、予約いつ取れるんだろう、もう!」 完全に僕の過失として話が進んでいく。家の中の空気がピリついた、その時だった。

「……あ。ごめん。これ、歯じゃないわ」

数秒前までの怒りはどこへやら、妻が拍子抜けしたような声を出した。 「これ、夕飯のひきわり納豆だわ。 アハハ!」

……「アハハ!」じゃねえよ!と喉元まで出かかったが、ここで反論して火種を大きくするほど僕は若くない。ぐっと飲み込んで、「納豆でよかったね」と苦笑いしてその場を収めるのが、平和を維持するための僕の処世術だ。これが我が家の、騒がしくも日常的な光景である。


さて、今日の写真は、珍ちゃんが保育園から持ち帰ってきた「アサガオの苗」。 もらった時はあんなに小さかったのに、今ではツルを力強く伸ばし、立派に成長している。

珍ちゃんの歯も、アサガオの苗も、毎日見ていると気づかないが、確実に一歩ずつ大人へと近づいている。次に歯が抜ける時は、納豆と見間違われないようにしっかりチェックしようと心に誓った一日だった。

[アサガオの苗が元気に育っている写真]