新人教育の話も書き留めておきたかったが、今日はどうしても先に記録しておかなければならない出来事が起きた。数年にわたって辛うじて保たれてきたTK課長との冷戦状態が、ついに火を噴き、直接的な衝突へと発展してしまったのだ。

きっかけは、拍子抜けするほど些細なことだった。 現場に回ってきた、TK課長が作成した仕事の指示書。それは彼が過去の古い資料を引っ張り出して書き起こしたものだったが、内容が極めて分かりづらく、今の現場の状況に即していない部分があった。

私は、TK課長とは一切口をきかない。過去の数々の非道な振る舞いを知っているし、何より生理的に受け付けないほど大嫌いだからだ。 まずは直属の上司である係長に確認を求めたが、係長もまたTK課長を毛嫌いしており、関わりたくないと腰が重い。ならばと、TK課長とうわべだけでも円満にやっている主任のY氏に仲介を頼んだが、色よい返事は得られなかった。

万策尽き、最後はTK課長のすぐそばで働く事務員のWさんに「指示書が分かりにくいと伝えてほしい」と託した。係長もY氏もWさんも、誰もがTK課長の逆鱗に触れることを恐れて「NO」を突き合わせたが、結局は「まあ、このままでも進められないことはないから」という妥協点で現場は動き出した。

しかし、嵐は翌日にやってきた。 まず係長がTK課長の元へ呼びつけられた。事務所からは「この指示書で意味が分からんのか!このままやればいいだろうが!」と、顔を真っ赤にして怒鳴り散らすTK課長の声が響いてきたという。 数時間後、ひどく消耗した顔の係長が私の元へやってきた。 「TK課長が呼んでる……。たぶん、キレられるよ……」

「ああ、ついに来たか」 私は覚悟を決め、ヒリつくような緊張感が漂う事務所の扉を開けた。


事務所での決闘

「この指示書のどこがダメなんだ?」 開口一番、TK課長が威圧的に迫ってきた。

「ここが分かりづらいです。これとこれの内容も間違っています」 淡々と答える私に、彼はさらに語気を強める。 「これはお前の親父さんが昔作ったものを写しただけなんだぞ! それがダメだっていうのか?」

彼が確信犯的に「もめる気満々」であることは明らかだった。亡き父の名前まで引き合いに出し、私の感情を逆撫でしようとする卑劣なやり口。私は冷静に言い返した。 「ならば、今の時代に合ったものに作り直しましょうよ」

しばしの沈黙の後、彼は論点をすり替え始めた。 「ところで、これがどれだけ歩留まるか分かっているのか?」 「25パーセントですよね」 「じゃあ、この歩留まりの傾向は理解しているのか?」 「直属の係長から、安定して推移していると確認済みです」

不毛な問答が続く。私はこれ以上時間を浪費したくなかった。 「もういいですか? まだ現場の仕事が残っているので戻ります」 すると、彼はついに理性を失ったように吠えた。 「お前、さっきまで係長とベラベラ喋っていただろうが!」 「仕事の話もしますし、世間話くらいはしますよ」

お互いのボルテージは最高潮に達していた。そして、彼が最も根に持っていた本音が飛び出した。 「なんで指示書の件も、俺に直接言わずにWさんを通して言ってくるんだ! 直接言えよ! お前、俺のことが嫌いなんだろう!」

どうやら、Wさんが気を利かせて(あるいは不器用な形で)伝えてくれたらしい。だが、もう隠す必要もなかった。私は人生で初めて、面と向かって他人にこの言葉をぶつけた。

「ああ、お前みたいな奴、大っ嫌いだよ! 直接話なんてするわけないだろうが!」

人生そこそこ長く生きてきたが、これほどストレートな「逆告白」をしたのは初めてだった。そして、TK課長もまた、部下からここまで真っ向から拒絶の言葉を叩きつけられたのは初めてだったに違いない。


火蓋は切られた

「もうやめなさい! 二人ともやめなさい!」 事務員さんの最年長の方が、たまらず割って入ってくれた。 TK課長は「いや、俺は仕事の話をしていただけで……こいつがあーだこーだ言うから……」と、急に被害者のような口ぶりで自己弁護を始めたが、私はそれを背中で聞き流し、無言で事務所を後にした。

数年にわたって保たれてきた、薄氷のような均衡は粉々に砕け散った。 誤魔化しながら、騙し騙し日常を過ごすことには、もう限界が来ていたのだ。仕方がない。平穏な日常を本当の意味で手に入れるためには、避けては通れない戦いだったのだと自分に言い聞かせている。

とはいえ、やはり明日の出勤を思うと足取りは重い。 自分の放った言葉の鋭さに、自分自身も少しだけ傷ついているのかもしれない。だが、一度切られた火蓋はもう閉じられない。私は私として、この「戦い」を最後までやり遂げるしかないのだ。

四十を過ぎた男の、あまりに青臭く、あまりに切実な秋の日の記録である。