先週の週末、2月には珍しく気温が20度を超えた。あんなに暖かければ、自然と身体が動く。久しぶりにバイクを走らせ、ヘルメット越しに春の匂いを存分に味わうことができた。あの束の間の解放感。しかし、天国は長くは続かない。
週が明けた途端、景色は一変した。またしても冬に引き戻され、刺すような寒さが戻ってきた。本当に嫌になってしまう。
朝、会社に着くと空気は氷のように冷え切っている。作業を始める前の工場内は冷蔵庫同然だ。指先は早々に感覚を失ってかじかみ、厚手の靴下を履いていても、安全靴の鉄芯を抜けて底冷えがじわじわと足裏を攻めてくる。
これだけ寒いと、「火」が恋しくて仕方がない。あの猛烈な熱気、ゆらゆらと揺れる橙色の光が、今は何よりの救いに思える。早く本当の春が来てほしい。そして、灰色の空ではなく、青空に映える満開の桜を拝みたいものだ。
さて、今日も我が社の「変わり者」について、記録を残しておこうと思う。
我が社は、どういうわけか見た目も考え方も、世間一般の「普通」から大きく逸脱した猛者が揃っている。今日紹介するY氏も、その筆頭と言えるだろう。
現場には業務上、2.5トンという巨大なフォークリフトが何台も稼働している。この重量感が、若かりし日のY氏の心に火をつけてしまったらしい。2.5トン——日常生活ではまずお目にかかれない「桁違いの単位」に、彼は妙な興奮を覚えたという。
そして、彼がふと自分の足元に目を落としたとき、悪魔的な好奇心が芽生えた。
「このカチカチの安全靴と、2.5トンの重戦車……果たして、どっちが強いんだろう」
いわゆる「矛盾(ほこたて)」の問いが、彼の脳内を支配した。
彼が導き出したルールは単純明快だった。
「フォークリフトに踏ませて、安全靴が無傷なら靴の勝ち。潰れたらリフトの勝ち」
ここまでは、好奇心旺盛な若者なら、あるいは理解できる範疇かもしれない。しかし、Y氏が真に「本物」である理由は、その後の行動にある。
普通の人間なら、万が一を考えて靴を脱ぎ、中に石ころか何かを詰めて実験するだろう。だが、彼は違った。何を思ったか、彼は安全靴を**「履いたまま」**、ゆっくりと前進してくるフォークリフトの進路に、自らの足を差し入れたのである。
本人の述懐によれば、巨大なタイヤが安全靴のつま先に乗り上げた瞬間、鉄芯が悲鳴を上げ、足先にダイレクトに伝わるほど靴が歪むのを感じたという。
「流石にマズい……!」
その瞬間、脳裏をよぎったのは「足が潰れる」という最悪のイメージ。背筋には冷や汗が噴き出し、時は止まったかのように感じられたそうだ。
しかし、結果として奇跡は起きた。
ミドリ安全の安全靴、そのつま先は2.5トンの重圧に耐え抜き、持ちこたえたのである。
間一髪、Y氏は文字通り自らの足を「潰さずに」済んだ。
今でも現場で安全靴の話題になると、彼は誇らしげに、まるで戦場から生還した英雄のような顔でこのエピソードを語り出す。そして、最後には必ずこう付け加えるのだ。
「いいか、安全靴は絶対にミドリ安全に限るぞ。俺の足が証明してるんだからな」
命知らずな実験の代償として得た、揺るぎない信頼。
そんな破天荒な同僚たちに囲まれながら、今日も私は底冷えする工場で、春の訪れを静かに待っている。