先週の水曜日から、我が家は「胃腸炎」という名の嵐に見舞われた。

発端は娘だった。学校で嘔吐したという知らせを受け、慌てて迎えに行く。そこから金曜日まで、娘はすっかりダウンしてしまった。布団の中で力なく横たわる娘を横目に、私はどこかで高を括っていた。「まあ、子供はこうやって免疫をつけていくもんだ。しっかり休めよ」なんて、自分は絶対にかからないという謎の自信に満ち溢れていたのだ。

その自信が、あまりにも愚かな過信だったと思い知らされるまで、そう時間はかからなかった。

木曜日に食べた、あの重たいメンチカツパンがいけなかったのか。それとも金曜の昼、胃腸に違和感を覚えながらも「気合で治る」と流し込んだ油ギッシュなカレーパンがとどめを刺したのか。午後を過ぎたあたりから、私の腹部は急激な「下り坂」へと突入した。

結局、待望の週末はトイレと寝床を往復するだけの苦行へと変わった。せっかくの休みは文字通り「パー」である。青白い顔で何も口にできず、ただただ苦痛に耐える週末。そのおかげで図らずも2キロの減量に成功したが、失った活力の代償としてはあまりに高い。そして何より、自分で汚したとはいえ、フラフラになりながら行うトイレ掃除ほど精神を削られる作業はない。ようやく動けるようになった今、「まあ、そんなこともある」と無理やり自分を納得させて、仕事へと向かった。

しかし、週明けの職場で私を待っていたのは、病み上がりの体には刺激が強すぎる「強者」のエピソードだった。

出勤すると、そこにいたのは上司のY氏だ。彼は年間5日の有給休暇すら消化しない、この令和の時代において絶滅危惧種とも言える「社畜」の権化である。そんな彼が、会社からの強い指示によってこの週末を3連休として過ごし、今日出勤してきたのだ。

久々の連休を満喫したであろう彼に話を聞くと、その内容はあまりに極端だった。

「1日目は平日だからどこも空いていて最高だった! 普段混んでいる場所を回って楽しんだよ」

ここまではいい。微笑ましい休日だ。

「2日目は、焼き肉に行って、カツ屋に行って、その後に回転寿司をハシゴした」

胃腸炎明けの私からすれば、聞いただけで胃がもたれそうな暴飲暴食ぶりである。

「で、3日目は何をしていいか分からなくてさ。ずっと家の天井を眺めて過ごしたんだ」

真顔でそう語る彼を見て、私は戦慄した。彼の下した結論は「3日も休みは要らない」というもの。私のような凡人には到底到達できない、仕事に魂を捧げた人種の放つオーラに、感心を超えてもはや畏怖の念すら覚えた。

だが、話はそこで終わらなかった。世間話のついでに、彼が唐突に切り出したのだ。

「おれ、今月からNISA始めるんだ」

聞けば、某組合組織を通じて、つみたてNISAで毎月1万円ずつ積み立てていくという。私は興味本位で「投資信託とかですか?」と尋ねてみた。しかし、返ってきた答えは、私の想像の斜め上どころか、異次元の方向から飛んできた。

「よく分かんないけど、選べるのは4つしかないんだ。1つは『ギャンブルみたいなやつ』。2つ目は『安定したやつ』。3つ目は『普通のやつ』。4つ目は『読めないやつ』」

彼は一切の冗談を排した真剣な顔で続けた。

「俺はよく分からんからさ、『ギャンブルみたいなやつ』に5,000円、『普通のやつ』に5,000円買おうかと思っているんだ」

その場にいた私と、もう一人の先輩S氏は、あまりの衝撃に言葉を失った。沈黙が重くのしかかる。

「ギャンブルみたいなやつ」とは、おそらく株式比率の高いアクティブ運用や新興国株のことだろうか。「普通のやつ」とはバランス型のことか……? そもそも、金融商品をそんなスロットマシーンの出目を選ぶような感覚で分類し、提示する組合の仕組みはどうなっているのだ。

私は激しい葛藤に襲われた。

国が「貯蓄から投資へ」と旗を振り、必死に進めているNISAという制度が悪いのか。

それとも、国民に最低限のお金の知識を授けない教育制度の欠陥なのか。

あるいは、これほどまでに乱暴な説明で済ませてしまう窓口の怠慢なのか。

はたまた、これっぽっちも調べようとしないY氏自身の無頓着さが原因なのか

……いや、待てよ。もしかすると、投資なんていうものは、これくらい「よく分からないけれど、とりあえず始めてみる」という無頓着さで挑むのが、精神衛生上、一番正解に近いのかもしれない。天井を眺める空虚な3連休よりも、たとえ「ギャンブルみたいなやつ」であっても、何かに資金を投じているという事実の方が、彼にとっては健全な刺激なのかもしれない。

そんな哲学的な問いを私に投げかけたY氏は、今日もまた、休みを欲することなく日曜日まで働き続けるのだという。

2キロ痩せた病み上がりの体で、私は彼の背中を眺めながら深く考え込んでしまった。世の中には、自分の物差しでは到底測れない価値観で生きている人間がいる。

カツパンで腹を壊す私と、天井を見つめて3連休を嘆き、直感でNISAに挑む彼。

一体、どちらが「健全」なのだろうか。

とりあえず、今日のところは、刺激の強い「ギャンブルみたいな」話は控えめにして、私の胃腸と同じように「安定した」食事を摂ることにしよう。