今日は、長男の8歳の誕生日だ。

振り返れば、この子がこの世に生を受けてからもう8年も経つのかと、感慨深い気持ちになる。しかし、我が家のジンクスというか、どういうわけか「こいつ」のイベントがある日は、物事が予定通りに運んだためしがない。今日という日も、まさにそのジンクスが悪い意味で的中した、忘れられない一日となった。

昼過ぎ、会社で現場仕事をこなしていると、妻からLINEが入った。主役である息子が夕飯に食べたいと言っていた好物を買い出しに出ているという報告だった。「ああ、もう8歳か。あんなに小さかった坊がなあ……」なんて、仕事の手を止めて柄にもなく物思いにふけったりしていた。定時を迎え、私は息子のお祝いのために、足早に帰路についた。

帰宅すると、家の中は妙に静かだった。

妻に聞くと、主役の坊は少し前から昼寝を始めたのだという。夜の誕生日パーティーという大舞台を前に、体力を「超回復」させているのだろうか。私はそんなふうに楽観的に捉え、彼が目を覚ますのを待つことにした。

ところが、時計の針がどれだけ進んでも、彼は一向に起きてこない。

それどころか、妻から不穏な情報を耳にする。

「どうやら、まだ宿題が終わっていないらしいのよ……」

その一言で、リビングの空気は一気に重くなった。

夕飯のデッドリフトと定めた19時半、ついに痺れを切らした姉が彼を叩き起こした。

しかし、起きてきた主役の様子がおかしい。お祝いの席だというのに、顔は土気色で、口を開けばグズグズと文句ばかり。何を聞いても泣きべそをかき、こちらが歩み寄ろうとしても、不機嫌の殻に閉じこもってしまう。

「誕生日になんでこんな態度なんだよ……」

私の胸中にも、次第に暗い雲が立ち込め始めた。

並べられた豪華な誕生日のディナーを前にしても、空気は最悪だった。イライラを隠しきれない私と、メソメソと泣き続ける息子。せっかくの楽しいはずの時間が、砂を噛むような苦い時間へと変わっていく。

ついに、私の堪忍袋の緒が切れた。

「もう、そんなに面白くないなら、食べるのをやめなさい!」

強く突き放すと、坊はビクッとした後、さらに肩を落として渋々と食事を口に運び始めた。その背中はあまりに小さく、そしてあまりに絶望に満ちていた。

ふと、彼の連絡帳が目に入った。

何気なくページをめくり、明日の宿題の内容を確認する。すると、いま彼が向き合っている(あるいは逃げている)内容と、連絡帳に記された指示が食い違っていることに気づいた。

「これ、宿題の内容が違うんじゃないか?」

私が問いかけると、堰を切ったように彼が泣き出した。

「……先生に、木曜日に休んだ分を、明日までに全部やってくるように言われたんだ。宿題が、宿題が多すぎるんだよぉ!」

その瞬間、すべての点と線がつながった。

先週の木曜日、彼は体調を崩して学校を休んだ。翌金曜日には元気に登校したが、週が明けた今日、担任の先生から「今日の宿題に加えて、欠席した木曜日の分の宿題も明日までに提出するように」と指示されたのだという。

8歳の子供にとって、その量はあまりに膨大だった。

月曜日の放課後、目の前に積み上がった課題の山を前にして、彼は絶望したのだ。逃げ場のない現実に打ちのめされ、彼は「昼寝」という名の現実逃避を選んだ。しかし、目が覚めてみれば時間は無情にも過ぎ去り、さらに誕生日のお祝いという華やかな時間が迫ってくる。

時間が足りない。終わるはずがない。怒られる。

自暴自棄になった彼は、お祝いを楽しむ余裕など一欠片も持てなかったのだ。

「そうだったのか……。悪かったな、気づけなくて」

私は彼と向き合い、一緒に宿題の山に挑むことにした。

改めて内容を確認すると、大人の私でも一瞬「ゲンナリ」するほどの分量だ。これを一人で抱え込んでいたのかと思うと、先ほどまで怒っていた自分が急に恥ずかしくなった。

それから一時間あまり。

父親と息子、二人三脚での突貫工事が始まった。鉛筆を走らせる音、消しゴムのカス。一つ、また一つとノルマを片付けていく。ようやく最後の問題を解き終えたとき、彼の顔から憑き物が落ちたようなスッキリとした表情が戻ってきた

地獄の宿題タイムが終われば、そこからは本当の「お祝い」の始まりだった。

さっきまでのグズグズが嘘のように、食卓には満面な笑みが戻った。ケーキを頬張りながら、彼の口からは止まることなく今日あった出来事や将来の夢が語られた。

嵐のような夕食時から一転、家の中は温かな光と笑い声に包まれた。

結局、いつものようにバタバタで、いつものように予定通りにはいかなかったけれど。

「パパ、このイチゴのケーキおいしいから、一口だけたべるか?ベラベラベラベラベラベラ…etc」

そう言って笑った彼の顔を見て、私は確信した。

この「最悪の始まり」から「最高の終わり」への大逆転劇こそが、彼の2026年の、一生忘れられない誕生日の記憶になるのだと。

8歳、おめでとう。

来年の誕生日は、もう少し穏やかに過ごせるといいな……なんて、無理な願いかもしれないけれど。

父より、愛を込めて。