月曜日の朝、作業着のズボンに突っ込んだ右手が捉えたのは、入っているはずのない「異物」だった。指先に触れる、滑らかで硬質なプラスチックの質感。
――嘘だろ。
恐る恐る引きずり出した手のひらの上には、そこにあるべきではない片方のイヤホンが、どこか清々しい顔をして鎮座していた。昨日、全自動洗濯機が過酷な洗剤と激しい水流のなかで完璧に磨き上げた「超絶・完全洗浄済みイヤホン」である。
ボタンを押してみる。突ついてみる。何をしても無反応。うんともすんとも言わない。沈黙を守り続けるその姿は、まるで職務を全うして静かに息を引き取った戦士のようだった。
犯人は、土曜日の自分だ。繁忙を極めた現場でバタバタと動き回り、いつも通り専用ケースに納めるという基本動作を怠った。ポケットという名の「忘却の彼方」へ雑に放り込んだあの瞬間に、運命の歯車は狂っていたのだ。今朝の洗いたての爽やかな衣服の香りさえ、今は絶望の香りにしか感じられない。月曜の朝一番に突きつけられた、あまりにも重い現実。まさに痛恨の極みである。
「……落ち着け。まだだ、まだ終わっていない」
呆然と立ち尽くすなか、脳裏に閃光が走った。幸いにも、もう片方のイヤホンは洗濯の難を逃れ、ケースの中で無事に生き残っている。「当面は片耳スタイルで凌げばいいのではないか?」と、天才的な回避策を思いついた……はずだった。
祈るような気持ちで生き残りの左耳を装着し、スマホの再生ボタンを押す。
「……ん?」
音は、出ている。出ているのだが……とにかく、遠い。あまりにも遠い。スマホの音量バーを限界突破のMAXまで引き上げても、聞こえてくるのは「そよ風の囁き」レベルの音量だ。静かな部屋で耳を澄ませて、ようやく「何か喋っている気がする」と認識できる程度の虫の息である。
長年ともに戦ってきた右耳の相棒を洗剤の海で失ったショックで、生き残った左耳まで意気消沈してしまったのだろうか。「相棒がいないなら、俺ももう本気は出せない……」と言わんばかりの衰弱ぶりだ。ペアリングという絆の深さが、まさかこんな悲劇的な形で裏目に出るとは思わなかった。
完全停止した右耳と、絶望に暮れて囁くことしかできなくなった左耳。
週の初め、太陽が眩しい爽やかな朝。作業着のポケットに手を突っ込んだだけの男は、静かに天を仰いだ。またしても発生する、完全に予期せぬ無駄な出費。買い替えの検索画面を開く私の指先は、今朝の洗濯機よりも激しく震えている。