秋の気配が深まってきた今日、手元に健康診断の結果が届いた。 封を切った瞬間、診断当日の騒がしい光景が鮮明に蘇ってきた。

我が社の「変わり者」が、視力検査のブースでひと騒動起こしていたのだ。 「この眼鏡はな、遠くを見るためのもんじゃねえんだよ!」 担当者に食ってかかる彼に、相手も負けじと声を荒らげる。 「それなら遠くが見える眼鏡を持ってきてください!これじゃ検査になりません!」 エキサイトする両者のやり取りを、私は遠巻きに眺めていた。ややこしい事態に首を突っ込む勇気はないが、せめて「手だけは出さないでくれ」と心の中で祈りながら見守る。そんな騒動さえも、どこか「我が社らしい光景」として受け入れている自分がいた。

そんな喧騒をよそに、肝心の結果を確認する。 今年の総合判定は「B」。 唯一、尿潜血に「弱陽性」の反応が出ていた。暑い環境下で働くせいか、尿検査は毎回のように引っかかるのが常だが、大きな異常ではないだろう。

それよりも、私が密かに、そして切実に心配していたのは「便潜血」の方だった。 実は持病のいぼ痔を抱えており、その出血が原因で再検査になることを恐れていたのだ。しかし、結果は幸いにも陰性。今回ばかりは「セーフだった」と安堵し、静かに胸をなでおろした。

ところが、皮肉なものである。 検査結果を受け取った「今日」に限って、件のいぼ痔はすこぶるご機嫌斜めなのだ。 検査時には鳴りを潜めていたはずの出血が、今日は止まる気配を見せない。頻繁にトイレへ駆け込んで拭き取らなければ、ズボンにまで染み出しかねない勢いだ。数値上の「陰性」という結果をあざ笑うかのように、現実は厳しい痛みを突きつけてくる。

仕事に追われ、自分の体を後回しにしてきた日々。 月40時間、時には60時間の残業をこなし、家と会社を往復するだけの毎日の中で、こうした「自分の小さな悲鳴」から目を背けてきた。けれど、身体は正直だ。

「今年中には、意を決して専門医の門を叩こう」 便潜血の陰性に甘んじるのではなく、この不機嫌な患部と決別するために。 ズボンの汚れを気にしながら、トイレの鏡に映る自分を見つめる。 働き盛りと言えば聞こえはいいが、ガタの来始めた体と向き合わねばならない40歳の秋。私は重い腰を上げる決意を、静かに固めていた。