仕事が始まってから、どうにも調子が上がらない。身体がどこか悪いわけではない。ただ、何に対しても「気が乗らない」のだ。連休という楽園から現実に引き戻された反動があまりに強烈すぎて、心にぽっかりと穴が開いたような感覚が続いている。

今年の目標は、宝くじの高額当選。そして、この会社からの「フェイドアウト」。 淡い期待を抱いた今月の抽選は、残念ながら「お預け」に終わった。それでも諦めきれず、今はクイックピックで一ヶ月一口、継続購入を続けている。客観的に見れば、それは蜘蛛の糸にすがるような、とてつもなく細く、頼りない希望だ。だが、その糸すらなければ、この日常の重みに押し潰されてしまう。

気を引き締め、私はペンを走らせる。時系列は前後するが、どうしても記録に残しておかなければならない出来事がある。知ってはいけない、組織の裏側を知ってしまったあの日のことを。

従業員30名程度の中小企業。その実態は、あまりにも濃密な同族経営である。 社長は創業者の妻。副社長はその弟。TZ常務は社長の娘婿、いわゆる「マスオさん」的な立場で家系に加わっている。それだけではない。社内を見渡せば、社長の娘(常務の妻)、その娘、副社長の娘に孫……。まさに「お身内」がゴロゴロと肩を並べているのが我が社の日常だ。

この特殊な環境で、うまく立ち回って出世を掴んだのが従業員出身のTC課長とI課長である。彼らの武器は、一にも二にも「身内への胡麻すり」。経営陣という「飛車・角」の懐に入り込んだ彼らが実権を握っているため、社内の風通しは最悪と言っていい。 「自分の仕事さえ淡々とこなせば、一日は終わる」 そう自分に言い聞かせ、澱んだ空気の中で息を潜めていた。しかし、その静寂を破壊したのは、他でもないTZ常務だった。

ある日、TZ常務が突然私の前に現れた。 「作業工程の中で、無駄な部分があったらなんでもいいから教えてくれ! そして、その理由を課長2人に説明してやってくれ!」

開いた口が塞がらなかった。内心で「馬鹿じゃねぇのか」という毒が漏れる。 事の経緯はこうだ。常務は別の従業員から入れ知恵をされ、課長2人が決めた手順に口出しをしたらしい。ところが、現場を掌握していると自負する課長たちから逆に集中砲火を浴び、コテンパンに打ち負かされたのだ。 余談だが、ゴマすり名人の課長2人は、直系ではない「外様」の常務を全くリスペクトしていない。陰では露骨に馬鹿にしている。面目を潰され、自分では太刀打ちできなくなった常務は、矛先を私に向けて「代わりに戦え」と言い出したのである。

常務はその後30分以上、もっともらしい精神論を垂れ流した。 「会社のために、やれることをやってくれ!」 「もっと良くするために協力してくれ!」 以前も聞いた、耳障りの良いだけの言葉。だが、今の私にはその一言一言が、無責任な丸投げの言葉にしか聞こえなかった。次第に腹の底から熱いものが込み上げてくる。 私は日々の平穏を愛している。だが、誇りまで踏みにじられるのなら、いつでもこの会社を叩き切って辞めてやる覚悟はできている。

一本気と言えば聞こえはいいが、他人の感情に疎い常務は、私の静かな怒りに気づかない。私は話の切れ目を見計らって、冷徹に告げた。 「TZ常務。近いうちに社長や副社長など、話の分かる方を集めていただけますか? 一度、腹を割ってしっかり話しましょう」

常務は「そうだな、そのうちに……色々話した方がいいな!」と、安請け合いをしてそそくさと立ち去った。私は確信していた。彼は「そのうちに」という言葉を、逃げ口上として使っている。このままでは、ただ彼に言いたいことを言わせて終わってしまう。

数時間後。私は通常では考えられない「ルール違反」を犯すことに決めた。お偉いさんたちが集まる役員室の扉を、躊躇なく開けたのである。 「TZ常務。さっきの話はどうなりました? 私はいつでもいいんですが、いつ集まれますか?」 居並ぶ役員たちの前で、逃げ場を塞ぐように言い放った。常務は顔を引きつらせ、「今! いや、今日はダメだ!」としどろもどろになっている。 「そうですか。なら結構です。失礼します」 私はそれだけを言い残し、部屋を後にした。

しかし、廊下を歩く私の背中を追う足音が聞こえた。 「待ってください」 呼び止めたのは、TZ常務の奥さんであり、現社長の娘であるYさんだった。 「あなたがここ(役員室)まで乗り込んでくるなんて、ただ事ではないんでしょう。少し、お話ししましょう」

彼女の目は、いつもの「お身内」としての緩慢なものではなく、一人の経営層としての鋭さを帯びていた。 ここから、私は会社の根幹を揺るがすような「驚きの事実」を耳にすることになるのだが……その衝撃については、また次に記すことにしよう。