進退をかけて。
ついに、私の中の我慢の袋が音を立てて弾けました。
相手は、社内でも悪名高いTC課長。50代前半、人間性は控えめに言っても最悪。これまでも数々の嫌がらせを耐え忍んできましたが、今回の件だけは「仕事だから」という言葉で飲み込むには、あまりに毒が強すぎました。
発端は、あまりに些細な、ごく当たり前の業務連絡でした。
明日の工程表が届かない。現場を預かる身としては、これがないと始まらない。私は事務のWさんに「工程表どうなってる? そろそろ来ないと困るんだよね」と声をかけました。それだけです。
ところが、これが悲劇(あるいは喜劇)の引き金となりました。Wさんは入社したばかりですが、若くて容姿端麗、社内の花形。そしてあろうことか、TC課長はこのWさんに文字通り「首ったけ」だったのです。
事件は管理職会議で起きました。日頃からパワハラの権化のような振る舞いをしているTC課長が、あろうことか私を指してこう言い放ったというのです。 「Wさんが傷ついている! あいつ(私)の物の言い方がキツイせいだ! パワハラ行為を許すな!」「話がある時は順序を守れ、彼女に直接話をさせるな!」
直属の上司からこの「お達し」を聞かされた時、怒りで視界が真っ赤に染まりました。 最初はWさんを疑いました。「あんな言い方でパワハラ扱いにされるのか? ふざけるな」と。しかし、ふと冷静になると違和感が込み上げてきました。街で偶然会った時も普通に世間話を交わす間柄です。彼女がそんなことを言い出すとは、どうしても思えなかったのです。
確信に変わったのは、Wさんの隣席で仲の良いKさんが私を訪ねてきた時でした。意を決して切り出しました。 「私、Wさんを傷つけてしまったみたいなんだけど……大丈夫そうかな?」
返ってきたのは、拍子抜けするような言葉でした。 「はぁ? 何のことですか? Wさん、そんなこと一言も言ってませんよ(笑)。なんでそんな話になってるんですか?」
やはり、そうか。あの色ボケハゲ課長、自分の気に入っている女の子を守る「騎士(ナイト)」を気取りたいがために、存在しない被害を捏造し、私を悪人に仕立て上げたのです。 話を聞いたWさんも慌てて飛んできて、「すみませんでした……私、本当に何も言ってないんです。信じてください」と泣き出しそうな顔で謝罪してきました。 「Wさんは何も悪くないよ。行き違いがあっただけだから、気にしないで」 彼女と和解したことで、私の中の標的は完全に定まりました。ターゲットは、権力を私物化し、嘘で部下のキャリアを汚そうとしたTC、ただ一人です。
私はその足で、社内の「独裁者」と呼ばれる最高権力者のもとへ向かいました。普段は滅多に口を利かない相手ですが、私のただならぬ怒気を感じ取ったのでしょう。 「不満、改善してほしい点をすべて書面に書き留めてこい」 そう言われ、私は迷わずペンを取りました。
これまでの陰険な嫌がらせ、人間性の欠如、そして今回の捏造パワハラ事件。溜まりに溜まった鬱憤を、A4用紙4枚にわたって叩きつけました。そして最後の1枚には、私の退路を断つ決意を刻みました。
「TC課長、およびその腰巾着であるI課長。彼ら二人がトップに座るような組織図や将来構想があるのなら、今すぐ教えていただきたい。その際には、私は即刻、退職させていただきます」
これは、一従業員が出せる最大の一手、文字通りの「刺し違え」の覚悟です。
これまでの私は、波風を立てないように、ザルのような家計を抱えながら必死に耐えてきました。しかし、自分自身の尊厳を嘘で汚されることだけは、どうしても許せなかった。
これから会社は激動の年末に突入するでしょう。この書面がどう処理され、TC課長がどう足掻くのか、あるいは私が会社を去ることになるのか。それはもう、独裁者の判断次第です。
ですが、胸のうちは驚くほどスッキリしています。 卑怯者に屈せず、正論を叩きつけた。後のことは知ったことか。 これから始まる「大掃除」の結果を、どうぞご期待ください。