「はぁ……」と、思わず深いため息が漏れる。今、家のソファにようやく体を沈めたところだ。全身の筋肉が鉛のように重く、特にハンドルを握り続けた腕と、慣れない雪道を凝視し続けた目は、もう限界を訴えている。
そもそも、昨日の夜が間違いだった。
「もし明日、早く起きられたらスノーボードに行ってみるか」
そんな、半分は「無理だろう」という期待を込めた、条件付きの約束。それがすべての発端だった。
今朝、時計の針が10時を回ったとき、僕は半分ホッとしていた。スノーボードに行くには、あまりにも遅すぎる時間だ。起きてきた息子に「今日は起きるのが遅かったから、スノーボードは無しだな」と告げた。至極まっとうな判断だと思っていた。
しかし、現実は甘くなかった。息子は「約束したじゃないか!」と、絵に描いたようなフテ腐れモードに突入。こちらが何を言っても無視、問いかけても壁に向かって黙り込む。せっかくの休日が、重苦しい沈黙と険悪な空気に塗りつぶされていく。
結局、その「空気」に耐えきれなかったのは僕の方だった。
「……わかったよ。今から行くぞ」
その一言を絞り出した瞬間、息子の顔にパッと灯がともる。その顔を見て少しだけ救われた気もしたが、現実は残酷だ。自宅からスキー場までは、車で片道2時間かかる。出発したのは、本来ならもう滑り終えて帰路についていてもおかしくない時間だった。
スキー場に着いた頃には、太陽はすでに傾き始めていた。慌ただしくウェアに着替えさせ、数時間だけ滑る。雪質はすでに固くなり始め、冷たい風が体温を奪っていく。
息子は満足そうに滑っているが、僕はといえば、転ばないように神経を使い、それ以上に「帰りの2時間の運転」が頭をよぎって、ちっとも楽しめない。
帰宅したのは、もう夜も更けた頃。
息子は車の中で泥のように眠り、家に着くなり「楽しかったー」と一言残して、自分の部屋へ消えていった。
残されたのは、濡れたウェア、びしょびしょのスノーボード一式とそして使い果たした僕の気力と体力だけだ。
「朝起きれたら」という条件は、子供にとっては都合よく書き換えられるものらしい。確実に行けない理由を並べるよりも、折れて連れて行くほうが精神的に楽だと思ってしまった自分への後悔が、どっと押し寄せてくる。
明日からまた仕事が始まるというのに、リフレッシュどころか、一週間分の体力を前借りで使い切った気分だ。
放置されたボードを眺めながら、もう一度、深く、深くため息をついた。