午前4時30分。暗闇の中で無機質なアラーム音が鳴り響く。

重い鉛を流し込まれたような身体を、半分執念だけで引きずり起こすのが私の日課だ。窓の外はまだ深い紺色に沈み、遮光カーテンの隙間からは冬の鋭い冷気が忍び寄っている。

「あと5分。いや、いっそこのまま全てを投げ出して二度寝してしまおうか……」

そんな逃避行のような思考が、毎朝のルーティンとして頭をよぎる。代わり映えのしない、しかし過酷な日常。今日もまた、油の匂いと機械音に埋もれる長い一日が始まるのだ。ため息とともに掛け布団を剥ごうとした、その時だった。

同じ寝室、すぐ隣のベッドで丸まっていた娘が、ふいにもぞりと動いた。

眠りの淵を漂っているのか、それとも私の気配に気づいて覚醒したのか。薄暗い部屋の中で、娘はまどろんだ声のまま、独り言のようにつぶやいた。

「パパ、頑張ってきてね。愛してるよ……」

その言葉は、冷え切った寝室の空気を一瞬で塗り替えた。

子供特有の、無垢で、計算のない響き。彼女にしてみれば、夢うつつの中でふと思い浮かんだ、深い意味のない言葉だったのかもしれない。だが、疲弊した身体で戦場へ向かおうとしていた一人の男にとって、それは何物にも代えがたい救いだった。

暗闇の中、視界がじんわりと熱くなるのを自覚する。

「パパも愛してるよ」と、震える声を抑えて返すのが精一杯だった。彼女はそのまま再び深い眠りに落ちていったが、私の胸には消えない灯火が宿っていた。

寒冷のリビングと、静かな決意

寝室を出て、誰もいないリビングへ向かう。

暖房が効き始める前の部屋は、外気と変わらないほどに冷え切っている。時計代わりにつけている『めざましテレビ』の明るいBGMと、キャスターたちの快活な声が、静まり返った空間に響く。画面の端に表示された時刻は、容赦なく出発の時が近いことを告げていた。

キッチンで一杯の白湯を飲み、身体の芯を無理やり起こす。

かつては義務感だけでこなしていたこの準備も、今朝は少しだけ景色が違って見えた。

「よし」

小さく、自分にしか聞こえないようなため息を一つ。それは諦めの吐息ではなく、腹の底に力を込めるための気合の合図だ。

コートを羽織り、玄関を開ける。頬を刺すような寒風が吹き抜ける中、私はよどんだ空気の漂う工場へと車を走らせた。鉄の匂いと、繰り返される作業の音。決して楽ではない現場が私を待っている。

しかし、耳の奥にはまだ、あの幼い声が残っている。

「愛してる」という、最強の御守りを胸に。

私は今日という一日を、昨日よりも少しだけ誇りを持って戦える気がした。