我が社の奇人。
「また怠けている!」と自分を叱咤する暇があるなら、書くしかない。 私は、とあるモノ作り企業の底辺で必死に生きる男。習慣化が苦手な「だめ人間」を自称しているが、幸いなことに、私の職場は「普通の会社ではまずお目にかかれないエピソード」の宝庫だ。今日も、お盆休み前に起きた、背筋も凍るような(物理的な意味で)怪事件をひとつ披露しよう。
通路に置かれた、何の変哲もない資材
それは長期連休前、資材の納入が重なった慌ただしい日のことだった。 通常、資材は所定の場所に収まるものだが、その日はたまたま、業者が通路脇の床に直接パレットを置いていった。通路を塞いでいるわけでもなく、特に問題視する者もいない。誰もが「ああ、あそこに資材があるな」と認識しているだけの、ありふれた光景だった。
しかし、平和な日常から悲劇は唐突に生まれる。
轟音の静寂
騒音渦巻く工場内に、それらすべてをかき消すほどの凄まじい音が響き渡った。 「バキバキバキッ!ッバキィィィ!!!」 何かが無惨に裂け、粉砕される絶望的な音。工場の人間が全員手を止め、「何事だ!?」と色めき立つ。
静まり返った空気の中、一人の男がフラリと現れた。 我が社の最終兵器、奇人のYG君である。彼は表情ひとつ変えず、ボソリとこう告げた。
「すいません……前見てなくて、フォークリフトで資材踏んづけちゃいました。どうしたらいいですかね?」
検証:それはもはや「事故」ではなく「突破」
現場に向かった私は、目の前の光景に絶句した。 そこにあったはずの、高さ50センチはあろうかという木製パレットと重厚な資材。それらが、フォークリフトの巨大なタイヤによって真上から走り抜けられ、文字通り「ズタズタ・グチャグチャ」の産業廃棄物と化していたのだ。
居合わせた面々で現場検証が行われたが、謎は深まるばかりだった。
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謎1:なぜ止まらないのか? 高さ50センチの障害物。リフトの惰性で越えられる高さではない。確実に、ぶつかった瞬間に「お、何かあるな」とアクセルをさらに踏み込まなければ、この山を登り切ることは不可能だ。
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謎2:なぜ気づかないのか? リフトは45度近く傾いたはずだ。遊園地のアトラクション以上の衝撃があったはずだ。工場中の人間が振り返るほどの「バキバキ音」が足元で鳴っていたはずだ。
検証の結果、恐るべき結論が導き出された。 **「彼が運転するリフトは、前方に何があろうと、目的を遂げるまで決して止まらない」**ということだ。
隠蔽工作と、本当の恐怖
その後、YG君は分別不可能なほど粉々になった資材を、必死に「隠そう」としていた。「上にバレたら怒られる」という一心で、グチャグチャの残骸を抱えて右往左往する彼の姿。 「隠したところで、在庫の数が合わなきゃ一発でバレるだろ……」と呆れる反面、私は心の中で、ある重大な事実に気づいて戦慄した。
「もし、この男が運転するリフトの前に自分が立っていたら……?」
間違いなく、私はあのパレットと同じように、バキバキと音を立てながら「踏破」されるだろう。YG君は無表情のままアクセルを踏み込み、私がズタズタになった後で「すいません、前見てなくて」とボソリと言うのだ。
口数少なく、淡々とフォークリフトで障害物を粉砕していく奇人・YG君。 お盆休み前の暑い日、私が感じたのは熱中症の予兆ではなく、生身の人間に対する底知れぬ恐怖だった。