今日は、有給休暇を取得して子供たちの持久走大会の応援に行ってきた。

正直なところ、我が家の二人の子供たちは持久走に対して全くと言っていいほど熱意がない。前日の夜も「持久走大会、嫌だなぁ……」と揃って溜め息をついていたほどだ。それなのに、「パパとママ、応援には絶対に来てね」と念押しされるのだから不思議なものである。 「まあ、仕方ない。来てほしいと言われるうちが花か」 そんな風に自分に言い聞かせ、私は職場の工場ではなく、学校のグラウンドへと向かった。

頭の中にあったのは、昨年の光景の「再生」だった。 二人とも走るのは苦手だ。今年も、引率の先生と仲良く並走しながら、最後尾で戻ってくる姿を見守ることになるだろう。それもまた我が子らしい、と覚悟を決めていた。

最初の出番は、上の子だった。 一生懸命に足を動かしてはいるが、やはり走るのは不得意なタイプだ。普段から工作や絵を描くことを好み、体型もどちらかと言えば「ぽっちゃり系」の愛されキャラ。コースのあちこちで声援を受けながら、上の子は去年のリプレイを見ているかのように、堂々の最下位でゴールした。 「最後まで諦めずに走り切って、本当に偉かったよ!」 私は心からそう声をかけた。順位なんて関係ない。その頑張りだけで、有給を取って来た甲斐があったというものだ。

さて、次は下の子の番だ。 彼もまた、家では弱気なことばかり言っていた。「何々ちゃんがすごく速いんだよ。あの子には絶対に勝てないんだ」と、負け戦を前提とした話ばかりを聞かされてきた。 一応、親として家を出る前にこう伝えておいた。 「いいか、本気出して走ってこい! 本気を出して負けたなら、それは仕方のないことなんだから」 しかし、期待値は限りなく低かった。スタート地点に立つ下の子は、こちらに気づくとヘラヘラと手を振っている。「やれやれ、集中力のかけらもないな。まあ、怪我せずに帰ってくればそれで良しとしよう」……夫婦でそんな言葉を交わしながら、スタートの号砲を待った。

パンッ、と乾いた音が響く。 その瞬間、私の目に飛び込んできたのは、予想を根底から覆す光景だった。 下の子が、猛烈な勢いで飛び出したのだ。二番手にピタリとつけ、先頭を走る子を今にも食い尽くさんばかりのスピードで目の前を通り過ぎていった。 「……おい、最初にあんなに飛ばして大丈夫か?」 「後半、間違いなく歩いて戻ってくるぞ、あれは」 私と妻は、我が子の無謀とも思える突っ込みに半ば呆れながら見送った。

ところが、数分後。 コースの先から係員の大きな声が響いた。 「先頭、グラウンドに戻ります!」 まさかな。そんなはずはない。どうせさっきの速い子が独走しているのだろう。そう思いながら、グラウンドの入り口に目を向けた。 現れたのは、一人の影。 土を蹴る足元に、見覚えのある、うっすらと特徴的なソールが見えた。 「……えっ?」 それは、紛れもなく我が家の下の子だった。今まで一度も見せたことのないような爆走。苦しそうな表情を見せつつも、その脚取りは力強く、後ろを走る子たちを大きく引き離している。 「うわぁぁーっ!」 言葉にならない叫びが口から漏れた。 彼はそのまま独走態勢を崩さず、二位に大差をつけてゴールへと飛び込んだ。

一等賞。 呆然とした。夫婦で顔を見合わせ、ただただ唖然とするしかなかった。 普段、家で真面目に何かを成し遂げる姿など見たことがなかった。一体何を考えているのか分からないと、我々親を困らせてばかりの下の子。 「あいつ、本気でやったらあんなにやれる子だったのか……」 信じられない気持ちと、込み上げてくる熱いものが混ざり合う。

走り終わった彼は、またいつものように飄々とした顔でこちらに手を振っている。 すると、周囲の保護者の方々から次々と声をかけられた。 「お子さん、ものすごく足が速いんですね! 感動しました」 「あんなに頑張っている姿、本当にすごかったです」 我が子が褒められることが、これほどまでに誇らしく、気持ちがいいものだとは知らなかった。自分自身が小学生の頃にマラソンで勝った時の喜びなど、今の感動に比べれば微々たるものだ。我が子の一等賞という「輝き」に立ち会えた喜びは、親としての人生における宝物になった。

その後、教室に戻る際、彼は鼻息荒くこう言い放った。 「今日は本気出した!」 その言葉通り、持ち帰ってきた連絡帳には、担任の先生からこんな一言が添えられていた。 『「今日は本気出した!」と言って走り抜く姿が、とても可愛らしく、かっこよかったです』 さらに帰宅後、遊びに来た祖母に対しても、彼は誇らしげに繰り返していた。 「ばあちゃん、今日は本気出したんだよ!」

それからの私は、嬉しさのあまり、帰ってきた子供に何度も何度も持久走の話を繰り返してしまった。 「パパ、今日ずっとその話しかしないじゃん! しつこいよ!」 ついに息子から苦情が出てしまったが、ふと気づいた。 何度も何度も「本気出した」と自慢げに話す息子と、何度も何度も「凄かった」と繰り返す私。 「お前も親に似て、同じ話ばかりしてるじゃないか!」 心の中でそう突っ込みを入れ、思わず吹き出してしまった。

普段は馬鹿なことばかりして、腹が立つことも多い毎日。 けれど、今日のような瞬間があるから、親はやめられない。 子供の成長と、秘められた可能性。それを間近で見せてもらえただけで、今日という休日は、人生で最高の一日になった。