スマイル!wagonR。
14年連れ添ったアルトは、もはや車というより「動く鉄の塊」の極致でした。エアコンは沈黙し、ブレーキは悲鳴を上げ、素人のDIYで継ぎ接ぎされたマフラーは、走るたびに近所に生存確認を知らせる爆音を奏でる。それでも事故なく、4万円という「お餞別」を手にネクステージへと旅立っていきました。
「次は適当な軽でいいだろ。車なんて消耗品なんだから」
私のそんな合理的な提案は、嫁さんの「ワゴンRスマイル愛」という名の鉄壁の防御に、跡形もなく粉砕されました。 「スマイルじゃなきゃ嫌!」「この色じゃなきゃ中古でも嫌!」 その執念に根負けし、気がつけば**「7年ローン」**という、もはやゴールが見えないマラソンの号砲が鳴り響いたのです。
「大事に乗って乗り潰すから!」
その言葉を信じた私の淡い期待は、納車2日目にして、空から降ってきた「白い悪魔」によって打ち砕かれることになります。
ピカピカのボディ、新車の匂い。まだ指紋一つ付けるのも躊躇われる納車2日目。 嫁さんが何気なく道を走っていると、突如、上空から**「ドドドドド!」**という、爆撃機でも通ったかのような轟音が。
空を見上げれば、そこには大群の鳥。そして地上には、新車のボディを無慈悲に彩る、大量の「白い液体(糞)」。 傷こそないものの、納車2日目にして強制洗車。この時、私はまだ「まあ、運がつくっていうしね」と笑う余裕がありました。
しかし、これはほんの序曲に過ぎなかったのです。
事件は、仕事中に鳴り響いた嫁さんからの「長い着信」で幕を開けました。 この「長い着信」ほど、心臓に悪いものはありません。
「家のシャッターが開く前に、バックしてぶつかった……!」
電話越しの震える声。私の頭の中は、納車3日目の新車の凹みと、電動シャッターの修理見積もりが交互に点滅する「大パニック状態」に。 「帰ったら見て!」と言われても、見たところで魔法で直るわけでもなし。その日は一日中、ゲンナリという言葉を擬人化したような顔で仕事をこなしました。
帰宅すると、泣きじゃくる嫁さん。 **「泣きたいのは7年ローンを背負った俺の方だよ!」**という言葉を、必死に喉の奥で飲み込みました。 暗闇の車庫で確認した、凹んだ車と曲がったシャッター。それは、新車という輝かしいステータスが「現実」という名の壁に激突した瞬間でした。
傷だらけのまま乗り続けることを決意し、なんとか平静を取り戻そうとした納車1週間目。 もはや伝統芸能となった「長い着信」が、再びスマホを震わせます。
「もう勘弁してくれ……」と祈るような気持ちで出ると、予感は的中。 「……飛び石で、フロントガラスにヒビが入った……」
もはや、神様が「この車を新車として扱うんじゃない」と怒っているのではないか。 嫁さんのせいではない。誰のせいでもない。しかし、なぜよりによって「今」なのか。 頭の中はグラグラ、視界は白濁。もはや「新車」という概念そのものが、我が家への挑戦状に思えてきました。
帰宅して確認したフロントガラスには、しっかりとしたヒビ。 しかし、不思議なもので、ここまでトラブルが畳み掛けてくると、人は一周回って「賢者」の域に達します。
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「相手(人間)が居なくて良かった!」
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「シャッターは……まあ、閉まればいい!」
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「ヒビも……まあ、景色の一部だ!」
結論が出ました。 この「ワゴンRスマイル」が不幸を呼んでいるのではありません。 「新車だから傷つけてはいけない」という、こちらの気負いこそが、アクシデントを過剰な悲劇に仕立て上げていたのです。
今日、私は決意しました。 この車を、もう「特別扱い」するのは止めます。 4万円で旅立ったアルトと同じ、泥にまみれ、雨に打たれ、家族を運ぶための**「究極の消耗品」**として愛でることにしたのです。
ピカピカじゃなくていい。傷もヒビも、我が家の歴史の「刻印」です。 残り6年と51週間のローン、胸を張って払っていきます!